祖先から知覧茶を受け継ぐ、頼もしきリーダー
今回は、南九州市頴娃町新牧地区で、有限会社小磯製茶を経営されている、代表取締役社長の小磯雅一さんをご紹介します。
小磯さんのご先祖は、江戸時代(1836年)に初めてこの地域に茶の種を持ち帰った小磯助五郎氏。明治時代(100年以上前)、お茶栽培がこの地区で始められ、第2次大戦後、祖父の小磯一さんが共同工場を買い取り、会社を創業。雅一さんは福岡で大学時代を過ごし、八女市での修行を経て、30歳のときに、ご両親から会社を引継がれました。
霧島と同じ標高300mの山に囲まれた茶畑は、遅場地帯で収益性が低く、基盤整備がされていなかったため、作業効率が悪く、また社会では様々な飲料が飲まれるようになってきた状況から、雅一さんが引き継がれたとき、新牧地区の農家は経営が厳しくなっていました。
雅一さんは、海外で抹茶の需要が高くなってきたことで、霧深い山間地の茶畑に害虫が少ないことを生かし、2012年、抹茶の原料となる碾茶の有機栽培に取り組みはじめました。地区の農家の皆さんは、農家をやめるか、有機栽培に挑戦するかという選択をすることになり、雅一さんは何度も皆さんと話し合いを続け、有機栽培茶園の団地化が実現しました。団地化により、栽培面積が拡大し、そして新たな雇用が生まれ、若い人材も雇用されるようになりました。2015年、碾茶工場を建設し、株式会社藍を設立。碾茶の加工販売を行うとともに、市外の製茶会社に依頼し、抹茶の販売を開始、現在はヨーロッパ、米国にも輸出されています。
毎年天候が違う中で「毎年同じものをつくるのは難しい」とのこと、ゆたかみどり、さえみどり、おくみどりなど、いくつかの品種をブレンドしてつくるお茶は、小磯さん曰く、「やぶきたが、各品種の癖のある所を抑えてくれる」。やぶきたによって調和され、つくられているのです。
最近は、急須で飲む方が減少し、様々なお茶の飲み方がある中で、「飲み方はこだわらない。でも一番茶を飲んでほしい」と小磯さん。
前回ご紹介した菊永明彦さんと同じく、生産者の方々にとって、一番茶にかける強い思いは、並々ならぬものがあると感じます。そしてやはり「お客様から、おいしかった。来年も宜しくお願いします、と言われることが、一番嬉しい」とおっしゃっています。
有機栽培茶園の団地化を実現し、新たな雇用も生み出し、平成29年度「全国優良経営体表彰」農林水産大臣賞、平成30年度「第57回農林水産祭」内閣総理大臣賞、平成31年度黄綬褒章を受賞されました。各種表彰も協力してくださる地区や生産者、社員の方々のおかげと考える、知覧茶にとって頼もしい存在です。
小磯製茶さんの日本、鹿児島のお客さまには、抹茶よりも煎茶が好まれているそうですが、よりよい抹茶の販売方法を模索されているそうです。碾茶の注文は毎年3月頃で、受注生産されています。この記事をお読みいただいている皆様、今度の3月には、ぜひ注文を、お待ちしています。